キズナイズム 石丸 祐次氏
JAがDXを進めるための第一歩

人口減少や人手不足が進む中、DXは単なるシステム導入ではなく、地域農業と組合員との関係を持続させるための業務改革になりつつあります。
本対談では、JA-DX推進研究会(※)アドバイザーであるキズナイズム代表 石丸祐次氏に、JAでDXが求められる背景、現場で直面しやすい課題、改革を広げるためのポイントを伺いました。
※JA-DX推進研究会とは、日本農業新聞が2022年9月22日に設立した、JAのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための研究会。JAの業務改革やデジタル人材の育成、「スモールDX」の実践・普及を目的に活動し、全国のJAやIT企業などが参加する。2026年4月末時点で会員は100団体に達し、先進事例やノウハウを共有しながら、持続可能なJA経営の実現を目指している。
近年、JAにとって
DXが重要とされている理由を
どのようにお考えでしょうか。
近年、JAではDXへの関心が高まっています。まず、その背景について教えてください。
JAでは人材不足や組合員の高齢化、JA事業環境の深刻化などが同時に進んでいます。こうした課題を解決するためDXへの関心が高まっています。ただし、目的は単なるデジタル化ではありません。「人が頑張る組織」から「仕組みで支える組織」へと転換し、JAの業務を持続可能にしていくことが本質だと考えています。
地方のJAほど課題が大きいという印象があります。
課題そのものは都市部も地方も変わりません。ただ、情報量や導入のスピードには差があります。だからこそ、全国のJAが同じ情報を共有しながら取り組むことが重要です。JA-DX推進研究会の意義も、まさにそこにあります。
DXを進めるうえでは、まず何から見直すべきでしょうか。
まずは、業務の流れそのものを見直すことが欠かせません。紙を電子化するだけでは、本当の意味で業務は変わりません。誰が、いつ、何を行うのかという業務全体を見直してこそ、DXの効果がでてきます。部分的なシステム導入にとどめず、業務全体を最適化する視点が必要です。
一方で、業務改革には現場の抵抗もあります。属人的な仕事ほど、「自分の役割がなくなるのでは」という不安が生まれやすいですね。
だからこそ役員の強い意思が必要です。今までのやり方をそのままシステム化しても改革にはなりません。現場と対話しながら、少しずつ改善を積み重ねることが大切です。
つまり、DXは一気に進めるものではなく、小さな成功体験を積み重ねることが重要ということですね。
はい。まずは業務を見える化し、不要な作業を整理することです。その上でIT企業など外部の力も活用しながら改善を進めることで、人材も育っていきます。
私たちベンダーも、システムを導入して終わりではなく、運用まで伴走することが重要だと考えています。現場と一緒に改善を続けることで、本当のDXが実現できます。「人が頑張る組織」から「仕組みで支える組織」へ―。今回のお話から、DXとはシステム導入ではなく、JAの未来を支える業務改革そのものであることがよく分かりました。
今現在、JAのDXの進捗状況について
どう捉えていますか。
現在、JAのDXはどこまで進んでいるのでしょうか。
DXには「ここまでやれば終わり」というゴールはありません。JAごとに課題も違いますし、社会環境も変化し続けます。ただ、一つの目安として業務の6割程度をDX化できれば、大きな前進と言えるのではないでしょうか。

現場よりも経営層の危機感が強い印象でしたが、実際はいかがですか。
今では役員だけでなく職員も含めて多くのJAがDXの必要性を理解しています。人手不足はもちろん、事業環境の変化に対応するためにも、事業をデータ化し、見える化するDXは重要です。ただ、多くのJAでは情報がいまだに紙で管理されているケースも多いのが現状です。
DXが進んでいるJAには共通点がありますか。
組合長や役員の推進力が大きいですね。さらに、この数年でDX推進課など専門部署を設置するJAも増え、体制は着実に整ってきました。DXで申請、決裁、情報共有の流れを整理し、部門間連携を図ることで業務スピードや意思決定の質が改善しています。
DXが進んでいるJAでは、どのような成果や変化が出ていますか。
これまで生産者からFAXで受け付けていた運用では、どうしても受け付けて終わりになりがちでした。一方、デジタル化することで、「受け付けました」といった応答をすぐ返せるようになり、承認スピードも上げられます。
JAの場合、組合員や生産者がどれだけ便利さやありがたみを感じてくれるかが大切です。効率化で生まれた時間を、組合員と接する時間に充て、喜んでもらえる取り組みにつなげていくことが重要だと考えています。
DXを進める中で、
多くのJAが直面しやすい課題には
どのようなものがありますか。
JAがDXを進める上で直面しやすい課題について伺います。多くのJAに共通する課題はありますか。
大きく三つあります。まず一つ目は、DXの目的が曖昧になりやすいことです。システムを導入すること自体が目的になってしまい、本来目指すべき業務改善が後回しになってしまうケースがあります。
目的が曖昧のまま進めてしまうと、効果も見えにくくなりますよね。
その通りです。二つ目は、ワークフロー(業務プロセス)が十分に整備されないことです。整理しないままDX化を進めると、非効率な業務をそのままデジタル化してしまいかねません。たとえば、承認経路が複雑なままだったり、紙前提の確認作業が一部残ったりすると、かえって現場職員の負担が増えてしまいます。だからこそ、全体最適の視点で業務を見直すことが重要です。
現場では、つい「この業務だけ」「この部署だけ」と個別最適になりがちですね。全部門を巻き込むのは簡単ではありませんが、だからこそリーダーの推進力が欠かせないと感じます。
その一方で、今うまく機能している仕組みまで否定する必要はありません。良いところは評価しながら、必要な部分を改善していく姿勢が大切です。
三つ目は人材育成ですね。
はい。必要なのはITの知識だけを持つ人ではなく、業務を理解し、改善を設計できる人材です。ただ、育成には時間がかかります。だから私は、JAとIT企業が伴走しながら、互いに現場で学ぶことが最も効果的だと考えています。
教育には時間がかかりますから、まずは経験してもらうことが大切です。実際にやってみることで、少しずつスキルも上がっていきますし、やがて、「自分もやってみたい」と手を上げる職員も現れれば、いい流れが築けます。
私たちも導入後にJAへ伺い、一緒に設定や運用を進めています。研修だけでは分からなかったことも、実際に手を動かすと理解が深まりますし、JA業務を学ぶことができます。
DXは難しいものではありません。例えば、LINEで家族とやり取りしていることも立派なデジタル活用です。身近な成功体験を積み重ねながら、人とITが一緒に成長していくことが、JAのDXを前進させる一番の近道だと思います。
DXにこれから取り組むJAや、
推進に悩んでいるJAに向けて、
まず意識すべきポイントを教えてください。
これからDXに取り組もうとしているJAは、まず何を意識すればよいでしょうか。
DXはシステムを導入することが目的ではありません。業務改善を積み重ねていくことが本質です。そのためには、まず業務を見える化し、仕事の流れを整理することから始めるべきです。そして、最初から大きな改革を目指すのではなく、小さな成功を積み重ねる「スモールDX」が重要だと思います。

私も現状把握が出発点だと感じます。現状の業務フローが分からなければ、何を改善して、どんな効果が出たのかも分かりません。効果を数値で見えるようにすると、職員の皆さんのモチベーションにもつながります。
長年続けてきた仕事でも、実は誰も業務フローを図にしたことがないケースは少なくありません。それは間違っていたということではなく、これから改善するためのスタートラインに立つということです。例えば、最初はスケジュール共有や一枚の伺い書を電子化するだけでも十分です。実際に便利さを体感すると、「次は報告書も」「この管理簿も」と自然に改善が広がっていきます。検索がすぐできる、紙を探さなくて済むといった小さな成功体験が、次のDXにつながります。
さらに、他のJAの成功事例を積極的に真似ることも大切です。JA-DX推進研究会では「そのやり方を教えてください」という情報交換が活発に行われています。JAの中には改革したいと考えている職員が必ずいます。その人たちを中心に、サポーター企業と一緒に取り組み、小さな成功を積み重ねていけば、DXは着実に前へ進んでいきます。
今後のJAのDXは、
どのように進んでいくことが
望ましいとお考えでしょうか。
最後に、これからのJAのDXは、どのように進めていくことが望ましいのでしょうか。
職員や組合員が減少する一方で、業務は増え続けています。このままでは職員と組合員のコミュニケーションはますます減ってしまいます。だからこそ、DXは単なるシステム導入ではなく、組織全体の業務を見直し、JAを魅力ある組織へ変えていく取り組みでなければなりません。最初から大きな改革を目指さず、小さな成功体験が大切だと述べましたが、例えば手軽なペーパーレス化をDXの第一歩として始めてみてはどうでしょうか。
今後はAIの活用も重要になります。ただし、その前提となるのは業務データの蓄積と適切なルールづくりです。ワークフローや日々の業務記録がデータとして残ることで、AIはより有効に活用できるようになります。

つまり、DXは身近な改善から始まり、データ活用やAIへと発展していくということですね。
その通りです。全国にはすでに多くの成功事例があります。他のJAの取り組みを積極的に学びながら、小さく始めて大きく育てていくことが、これからのJAのDXには欠かせないと思います。
石丸 祐次
キズナイズム代表。大手SI企業にて、事業戦略の企画と運営部門の責任者を歴任。JA-DX推進研究会のアドバイザーとして初期から参画。『もっと日本のお米を食べよう!もったいないプロジェクト』主催。
関戸 紀仁
ディサークル株式会社 業務改革ラボ所長。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。中小企業診断士。DX推進をテーマに、企業の経営課題に即した業務改革・システム活用の支援に取り組んでいる。
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ユーザ企業さまに教えていただいた"DXを成功させるコツ"を体系的に3ステップにまとめました。
フォーム送信完了後、ダウンロード画面が表示されます。
このような方におすすめです。
・DXのやり方を知りたい方
・DX推進をしている方
・ペーパーレスのやり方を知りたい方